グルコース

バイオマスの糖化反応処理

バイオマスの主成分はリグニン、ヘミセルロース、セルロースです。リグニンはベンゼン環を主骨格とする化合物です。ヘミセルロースはキシロースなどの5員環(ペントース)を主骨格とし、セルロースは6員環(ヘキソース)を主骨格とする多糖類です。

バイオマスでの加水分解反応により生成する主な単糖は、キシロースかグルコースになります。天然物は複雑な系から成り立ちますから、ヘミセルロースから生成するペントースがすべてキシロースというわけではありません。しかしここでは、ヘミセルロ-ス=キシランとして話を進めます。キシランの構成糖はキシロースで炭素数が5つの炭水化物です。一般式ではC5(H2O)5となり、括弧をはずしてC5H10O5となります。これに対してグルコースは六単糖ですからC6H12O6となります。

加水分解反応への問題点

加水分解反応は徐々に進行することから、反応が進行すると共に単糖が生成し、さらに単糖の脱水反応により6単糖からはフルフラールが、6単糖からは5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が生成します。これらの化合物はそれなりに価値があるのですが、加水分解反応の目的が糖を得ることなら収率の低下を招く好まざる副生成物になります。また、グルコースの発酵によるエタノールを得る場合には酵素阻害物質として邪魔ものとなります。

1940年代ぐらいまでの加水分解反応の技術では、木材を原料としてキシロースとグルコースを自由に取り分ける事はかなり困難でした。困難であった理由は、キシランの加水分解反応速度が意外と早くフルフラールへと変換されてしまうことにもありました。また、セルロースの加水分解反応においてもグルコースから生成するHMFも同様な問題を示しました。

バイオマスの加水分解での課題は、反応条件の異なる[1]ヘミセルロースからキシロースへの変換技術と、[2]セルロースからグルコースへの変換技術を如何にしてバランスよく保つかにあります。このためには、加水分解反応を2段階として、前段階ではより穏和な条件での[1]のキシロースを、後段階としてより高温での[2]のグルコース生成反応を行うのが一般的になりました。

次の問題点は木材全体への触媒の浸透方法があります。木材をバイオマス原料として用いる場合には、なるべく粉末にして触媒との接触面積を大きくする必要があります。また木材は必ず水を含んでおりまれには80%程度 (1)のもあります。

水分が多い場合には、酸との水和熱が発生し反応温度の上昇を招きます。またこれに伴い、木材粉末の表面では温度の上昇に伴い加水分解が始まるため、部分的にゲル化が起こり見た目でもどろっとした様になります。木材粉末表面の粘度が増加すると木材粉末内部への酸触媒の浸透が妨げられることになります。結果として反応の進行が抑えられる事になります。このため、酸触媒が効率よく木材粉末内部に浸透するための撹拌が必要になります。

次の問題は、木材内部の空隙があります。材木の断面を見ると分かるように木材細胞から水が抜けた後が空隙として観察することが出来ます。この空間に存在する空気層は、酸触媒の浸透の邪魔をする事になります。酸触媒を効率よく細胞の空間に浸透させるには、圧力も有効な手段です。ショーラー法では反応塔に木材粉末と希硫酸溶液を仕込み、パーコレーターのフタをした後温度を上昇させます。反応塔の内部は温度の上昇に伴う水上気圧のため、木材の圧縮が生じます。このことにより、効率よく酸触媒を木材粉末内部へ浸透させることを行っていました。

このように考えるとバイオマスの糖化反応は、なかなか奥が深いかと思います。ここに示した考え方が実際の操業上ではどのように行われていたのかについては次回といたします。

(1)鹿児島県工業技術研究成果発表会予稿集(2002)

バイオマスの糖化反応

バイオマスの糖化反応における二大触媒である硫酸と塩酸を取り上げてみたいと思います。バイオマスを原料として糖を得る反応の原点は、1819年のフランス人であるブラコノーとされています。ブラコノーは木材を濃硫酸で処理することで糖を得ました。しかし、大量の濃硫酸から糖を分離回収するのはかなり困難な時代でもあり先駆者としての記録にとどまりました。

バイオマスの糖化反応に用いられる触媒

バイオマス中のセルロースを資源とする糖化技術は、酸触媒として濃硫酸と塩酸の二つが候補としてされました。しかしながら、当時の技術では塩酸よりも硫酸の取り扱いが容易であることから、技術開発は硫酸による糖化反応が研究されたようです。その後、濃硫酸の回収がやや困難なことから稀硫酸を用いる方法が展開されました。これは、硫酸のコストもその一因でありますが酸濃度が薄い分、反応速度が遅くなり生成したグルコースの過分解反応による収率の低下を解決するため、反応速度の向上を目的とする高温条件での糖化反応が研究されました。

濃硫酸によるバイオマス糖化反応は、1933年にドイツで最初の工場が建設され、特に第2次世界大戦中にはタンパク源としての飼料用酵母培養原料やエタノール原料としての糖化反応が実用化されました。しかしながら、戦争終了後にはこのような糖化工場のほとんどが採算等の問題点から閉鎖の道をたどりました。原因はコストだけでなく、当時の化学水準では糖化反応機構を十分に解明できず、最終的に操業率や品質等の問題を克服できなかったと指摘されています。

これに対して塩酸を用いる方法は理論的には優れた面がある反面、反応装置の腐食問題が大きな壁として立ちふさがっていました。塩酸によるバイオマスからの糖化反応は、1856年にベカンプスが始めたのが最初といわれています。塩酸を用いる糖化反応では資源として用いる木材粉末への触媒の浸透率は、硫酸よりも塩酸の方がよいとされ、総合的にも触媒の機能性としては塩酸の方が硫酸よりも2倍程度優れていると指摘されています。塩酸の性質は揮発性であり、濃硫酸と異なり回収率的には理論的には100%可能であり、木材粉末中における塩酸濃度のコントロールが可能かどうかの一点に技術開発の課題が掛かっていたともいえます。

塩酸を用いる加水分解反応速度は、高分子量範囲ではほぼ一定であり、加水分解反応が進行しセルロースの重合度が低下するとともに遅くなる傾向があります。また、反応速度は塩酸の濃度にも依存し、塩酸濃度が38%以下では反応の進行が遅いため、稀硫酸と同様に反応温度を上げる必要性が出てきます。しかし、反応温度が高くなるとせっかく出来たグルコースの過分解反応速度が増大するジレンマに落ちます。硫酸の場合には濃硫酸の回収問題を回避するために稀硫酸へ移行しましたが、塩酸も同様に反応温度上げる必要に迫られ、生成したグルコースの過分解の問題が発生しました。稀硫酸の場合には、過分解が起きない反応温度は160℃程度が限界です。

揮発性を示す塩酸の場合には回収の問題が容易なため、硫酸の場合と異なり塩酸濃度38%以上にあげることで反応速度を増大させる方法をとりました。しかし、反応温度を20℃以下とする塩酸での低温加水分解反応は、高濃度塩酸故の別の問題を発生しました。

問題は、濃塩酸によるグルコースの再重合反応が無視できないほど起こることです。セルロース由来の二糖は通常セロビオースで1-4β結合を取ります。これに対して濃塩酸中で再重合する二糖は主として1-6β結合です。反応方法がバッチ式でのセルロースの加水水分解反応では、加水分解反応によりグルコースが生成し、さらに生成したグルコースの重合生成物が平衡状態になるといわれています。したがって、収率を最大限にするには、反応を前期と後期の2段階に分ける方法が一般的です。

前期加水分解反応では、高濃度の状態で反応を行いセロオリゴ糖段階までの分解を行います。後期段階では生成するセルロース由来のオリゴ糖であるセロオリゴ糖の濃度を下げて、希薄状態で再重合反応を防止してグルコースを生成させる方法が採られました。これらの方法は、反応釜を用いるバッチ式反応ですが、反応生成物を速やかに反応系外へ取り出すことが可能であるならば、生成するグルコースの再重合反応を防止し、グルコースを効率よく生成させることが可能になります。

硫酸法でもグルコース収量の問題は同様で、ショーラー法などの希硫酸法では反応温度が160℃程度と高いため、反応槽自体が耐圧構造を採ると共に、高圧条件下でのパーコレータ方式での操業となりました。生成するグルコースを過分解反応から守るための連続式反応装置を採用する場合には、必然的にパーコレータ方式となるのはある意味で必然でした。

これに対して、濃塩酸法は低温反応であるため耐圧である必要はありませんが、発生する塩化水素ガスの除外装置は必須となります。お話を元に戻しますが、反応塔の最上部に投入された木材片は濃塩酸と共にバイブレータにより徐々に反応塔の下部に向かって落ちてゆきます。濃塩酸中の塩化水素が木材片に浸透すると、木材粉末中の塩酸濃度は木材中に含まれている水分により希釈が進行し、おおよそ20%から30%程度まで下がります。このため、塩酸濃度を再度高めるために第二段階として反応塔下部から塩化水素ガスが吹き込まれ、さらに糖化反応が進行します。

第二段階では反応温度を低く保つための冷却が行われ、吹き込まれた塩化水素ガスや濃塩酸等が木粉中の水分と接触する場合に発生する水和熱により上昇した反応温度をおおよそ20℃程度まで冷やします。塔頂での塩酸の濃度は35%ですが、塔底から出てくる糖化液の塩酸濃度は41%になります。塩化水素ガスの吹き込みは塔底から行うことで、反応全体の塩酸濃度を一定に保ちます。

これらの反応の問題点は木材に含まれる水分含有量が一定でないことです。現在進行中の泉州堺の廃バイオマス処理工場では、廃木材が10トントラックで搬入されていますが、これら木材中の水分含有量は様々で、推測ですが20%から40%程度とかなりの幅を持っていると思われます。泉州堺の工場では、グルコースの加水分解反応は稀硫酸方式をとっていますが、その硫酸濃度調整は困難のようです。反応が円滑に進まない原因はほかにもあり、反応の初期段階で投入した木紛表面で発生する粘度の増大が、加水分解反応薬剤の内部への浸透を妨げる因子として働くことに起因する反応速度の低下もその一因です。

バイオエタノール技術

バイオマスエタノールとは植物を原料として製造されるエタノール全般を示しています。市販のアルコール飲料も植物を原料としていますが、アルコール飲料は文字通り飲料用ですが、バイオアルコールは化学原料または燃料用です。

バイオエタノール製造

アルコール飲料の原料は、植物が光合成により二酸化炭素と水から作ったデンプンまたは糖です。デンプンを原料とする場合には、糖化工程によりデンプンをその構成糖であるグルコースへと変換することが必要です。これにたいしてワインなどは果汁成分が糖であることから、糖化工程は必要とせずに発酵工程だけでエタノールを得ることができます。

ビールやウイスキーは麦を原料として、糖化工程と発酵工程によりエタノールを作り、アルコール飲料として販売しています。日本酒はお米のデンプンが原料です。デンプンの糖化工程は比較的簡単で、エタノール製造技術としての完成度はかなり高いものがあります。

世界のバイオエタノール製造技術

世界では、ブラジルとアメリカが大規模な生産量を誇っており、それぞれサトウキビ、トウモロコシを主原料としています。

バイオエタノール原料には主としてデンプンとセルロースに分けることができます。デンプンの構造は、アルファ結合により成り立っていますが、セルロースはベータ結合により成り立っています。トウモロコシやサトウキビのデンプンや糖はそれらの構造から糖化しやすく、エタノールを得るのにコスト的にも引き合うため、近年盛んにバイオエタノール原料としての需要が高まってきました。

生物の世界では、アルファ結合の糖を生活資源とする生物と、ベータ結合の糖を生活資源とする生物がいます。人類は前者で、自動車用燃料としてのバイオアルコール、食料のためのトウモロコシやサトウキビの両方を同時に求めています。まさに二律背反です。

トウモロコシやサトウキビからのバイオアルコール生産は、安易な道です。これに対してベータ結合のセルロースを資源とするバイオエタノールの製造はかなり困難な道でした。

バイオエタノールの開発

前回お話ししたセルロース資源としての木材からのバイオエタノール生産は、第二次世界大戦中に日本(1)でも行われていました。木材からの糖化には硫酸が用いられました。この方法はドイツで開発されたショーラー法で、通称パーコレーター法とも呼ばれています。第二次世界大戦が終了してから、この硫酸触媒による糖化反応を企業化したのが北海道法(2)です。北海道法での起業化は、経済的要因と技術的要因の二つに問題があり実現に至りませんでした。

以降オイルリファイナリーの全盛を迎え、バイオリファイナリーは衰退していきます。しかし、今日の社会的要請により日本においても、国産技術と輸入技術でのバイオエタノール生産技術がプラント段階として実証試験が行われています。

セルロースは、糖同士の結合がベータ1,4結合から成り立っていることに加え、その構造が線形であることこら2位と3位の水酸基に起因する水素結合により強固な結晶構造を保っています。

結晶性セルロースの水素結合を破壊し、かつベータ結合で成り立つグリコシド結合を切ることはエネルギー的にもかなりハードルが高い課題です。このために通常は濃硫酸を用います。濃硫酸の用い方としては、一段階で行う方法で北海法がこれに該当します。

これに対し、二段階で行う方法では、一段階目に結晶性セルロースを非結晶(アモルファス化)し、その後に糖化を行う方法です。代表的な方法がアーケノール法(3)です。

硫酸を用いる方法にはいくつかの提案があるのですが、硫酸の濃度により分類すると、濃硫酸と希硫酸に分かれます。ショーラー法は稀硫酸法ですが、パーコレーター法とも呼ばれる理由は、連続的な糖化方法を採用しているため、珈琲のパーコレータと同じ原理での製造方法を採用していることに特徴があります。

現在の生産技術

ここで、現在の日本で行われている代表的なバイオエタノール生産技術を紹介したいと思います。
一番目がセルロースからの糖化反応は加水分解ですが、この反応の触媒に硫酸を用いない方法があります。すなわち非硫酸型糖化方法と呼ばれていますが、産総研中国センターで行われているベンチプラントです。セルロースは本来であれば、強力な触媒-濃硫酸などを用いないと加水分解が進行しません。理由はセルロースの結晶構造にあります。したがって、結晶構造さえ破壊しておけば、比較的低温での加圧熱水でも簡単に加水分解反応が進行します。

産総研モデルでは、石臼を用いた方法を採用しています。このプラントにも石臼で引いた微粉木材が展示されていますが、どろっとした粘性のある状態になっています。現在ナノセルロースとして研究(4)がなされていますが、セルロース結晶の直径が100nm以下になると徐々に粘土を増していきどろっとします。ナノセルロースは、高圧(5)でも製造することができますが、大量生産向きではありません。

広島のベンチプラントでは、前処理によりアモルファス化した微粉末木材を150℃で糖化しています。150℃は実に微妙な温度で、一般的にですが160℃以下であればグルコースは比較的安定です。180℃以上の高温熱水中でのグルコースは徐々に脱水反応は進行し、5-ヒドロキシメチル-フルルラール(HMF)が生成します。

このHMFはナイロンなどの原料であるアジピン酸に成ることから、それなりに好ましい生成物なのですが、酵素阻害性がありエタノール製造には好ましくはありません。エタノール製造からみれば、HMFは有害物資となります。加圧熱水での糖化反応では、これらのことから150℃は本当に絶妙な温度といえるでしょう。

しかし、このベンチプラントにも問題があります。石臼工程での微粉末木材のアモルファス化のコストと設備の問題です。石臼を用いることから大型プラントには不向きであるとの指摘が耐えません。

これに対し国が支援しているバイオマスエタノールプラントが大阪の堺市にあります。このプラントは、大阪府から搬入される廃木材を原料としたエタノール製造プラントです。プラントでは、搬入される廃木材を粉末として、ヘミセルロースとセルロースを対象としたエタノール生産技術の実証プラントとして稼働しています。

すでに何回も書いてきましたが、バイオマスの主成分は[1]リグニン、[2]ヘミセルロース、[3]セルロースです。[1]のリグニンはベンゼン環を持つフェノール系化合物で、エタノール生産の対象ではありません。[2]のヘミセルロースは5単糖と呼ばれますが、5単糖を資源とするエタノールを製造する微生物はありませんでした。

しかし、近年のバイオ技術では、遺伝子組み換えにより5単糖をエタノールに変換する技術が開発されたのです。この技術は画期的なもので、これまで対象外であったC5のヘミセルロースまでもエタノール化することを可能にいたしました。この技術はアメリカで生まれたのですが、日本で技術導入したのは月島機械(株)です。また、この技術を基にバイオプラントも立ち上げています。

大阪の堺市にあるプラントが該当します。ここでは、比較的低温でヘミセルロースからキシロースを製造し、2段階目に180℃近辺で希硫酸(たぶん数%程度)でグルコースを得てバイオアルコールを製造することを目的としたものです。

しかしながら、本プラントは本来の目的であるC6のグルコース製造が十分には稼働しませんでした。稼働しない理由は明らかにはなっていませんが、木材に含まれる水分含有量ではないかと推測しています。木材の糖化で問題となるのは反応温度と、用いる硫酸の濃度です。

廃木材を原料とする限り、運び込まれる木材は化学原料と大きく異なり、一定ではありません。したがって、反応条件が常に大きく変動することになります。結果として堺のプラントでのエタノール原価は想定を遙かに超えた値段となっています。また、プラント内にはには触媒として用いた硫酸の処理として石膏化を用いているため廃石膏置き場があるのが印象として残っています。

参考文献
(1)満州日日新聞、昭和11年7月
(2)富士書院発行、「わが国における木材加水分解工業-北海道木材化学株式会社の記録」,(1997)
(3)特開平11-506934号
(4)高分子、vol58,2月号(2009)
(5)木材学会誌、vol54,No.3(2008)