バイオマスの有効利用を目的とする場合での3大成分の分解・分離方法のうちバイオマスからのリグニンを分離する技術についてお話いたします。
バイオマスからのリグニンの分解・分離技術には、硫酸系、超臨界系、触媒系があります。リグニンの分解・分離技術は、パルプ製造技術の中で追求され、クラフトパルプ製造でその技術的な完成へと至っています。
クラフトパルプ製造とは、アルカリ処理を基本として硫化ナトリウムを添加する方法です。水酸化ナトリウムが約3.8モル程度に少量の硫化ナトリウムを添加し、アルカリとしては全体で約4.0mol/L程度の濃度に調製し、高温の蒸解釜で、リグニンとヘミセルロースを分解・分離します。この方法は高温でなくとも進行し、ナスフラスコなどのガラス容器中に、上記記載の割合でアルカリ液を調製し、パルプチップを入れて還流下で3日から4日ぐらい反応させるとセルロース繊維だけが取り出すことができます。
この繊維をよく水で洗えば紙の原料となるセルロース繊維を得ることができます。反応溶液は、リグニンとヘミセルロースの分解物がとけ込んでおり、真っ黒な色を呈します。この液を通称黒液(ブラックリカー)といい、硫黄のため硫酸基が付いた硫酸リグニンを得ることができます。しかし、クラフトパルプ製造では、この黒液から、水酸化ナトリウムや硫化ナトリウムを再回収し、リグニンは燃料として利用するため、化学原料としてのリグニンが世に出ることはありません。
化学原料としてのリグニンの有効利用を考える上には、このクラフトパルプからの硫酸化リグニンはあまり好ましいものではありませんでした。このため、バイオマス中のリグニンをそのまま分解し、バイオリファイナリーでの化学原料としてのリグニンの分離技術の開発が求められたのです。
リグニンの有効利用
最近の技術で注目されているのは、硫酸系触媒でパイロットプラントを保有している三重大学グルールプの「相分離系変換システム」(1)です。本装置では硫酸-フェノール系溶媒によるリグニンの分解・分離を常温・常圧下で行うもので、非加熱反応であることから、リグニンの化学構造そのままに分離される点が優れています。この技術は古くは1930年代にさかのぼりますが、プラント操業まで可能とした点で高く評価されています。
同様に酸を用いる方法としては、(株)トヨタ(2)からも提案されていますが、相変換技術ではないため工程中には中和処理工程が必要とされています。これに対し(株)東芝からは、酸やアルカリなどの薬剤を用いないで、亜臨界水とメチルエチルケトン溶媒の共存下での加水分解反応による低分子量リグニンの生成と、化学修飾で反応活性な酸無水物系の官能基の導入の提案(3)があります。溶媒を用いる点では、1930年代でのオルガノソルブ法に通じる点もあるが、亜臨界状態での加圧熱水を用いる点が特徴となっています。
バイオマスからのリグニンの分解・分離の目的は、化学原料としてであり、基本的構造としてフェノール骨格を有するリグニンを種々の高分子材料とするための活性点の創製にノウハウをつぎ込んだ提案も相次いでいます。低分子量化したリグニンを合成素子へと変換する技術には、(株)住友ベークライト(4)からの出願もあります。
最近では、リグのセルロース系の糖化技術の前処理としてイオン性液体の応用技術(5)も提案されていいます。スガニット・システムズ・インコーポレーテッドからの触媒法での最新技術は固体酸触媒であり、固液分離後の平易化と固体酸触媒の再利用を視野に入れた提案(6)です。
化学的手法のうち、酸分解法においては酸の使用量が膨大であり、その回収も困難であるという問題点がありました。特に濃硫酸は、再利用が困難であるため、膨大な産業廃棄物を生じてしまいます。そして、固体酸触媒を使用する方法やランタノイドイオンを使用する方法、超臨界流体を使用する方法では、いずれも高価な又は有害な化合物が必要であったり、反応性が著しく低かったり、厳しい反応条件が必要であったり、特殊な設備が必要であったりするなど、工業レベルでの実用化が困難であるという問題点があります。特に、超臨界流体を使用する方法は、クリーンではありますがエネルギーコスト的に非常に不利となっています。
参考特許
(1)特開:2008-266266
(2)特願:2010-090051
(3)特願:2010-163497
(4)特願:2010-255936
(5)特願:2010-521155
(6)特願:2009-257078